大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和23年(ネ)422号 判決

控訴人 川崎喜太郎

訴訟代理人 上野正秀

被控訴人 国 指定代理人 望月伝次郎 外一名

横須賀税務署長 指定代理人 松木昌治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人等は、被控訴人横須賀税務署長が控訴人に対してなした、昭和二十二年七月十七日附第一種増加所得金額九十九万円の決定に基く所得税金七十万五千円中七十万円の徴收手続、殊に右被控訴人が昭和二十三年二月二十日差押えた控訴人所有の神奈川縣三浦郡三崎町日の出東の町十番の十一地所在家屋番号七十九の三木造瓦葺平家住家一棟建坪二十八坪五合七勺の公売手続は、控訴人から被控訴人に対する右税金債務不存在確認請求訴訟の本案判決確定まで、これを行つてはならない、との判決を求め、被控訴人等代理人は、いずれも本件控訴を棄却する、との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、本件仮処分の本案訴訟は昭和二十三年十月二十六日横浜地方裁判所に提起されたもので、その請求の趣旨は、「一、被控訴人横須賀税務署長が控訴人に対してなした、昭和二十二年七月十七日附第一種増加所得金額九十九万円の決定に基く所得税金七十万五千円中千五百円を除く金七十万三千五百円の税金債務の存在せざることを確定する。二、被控訴人等は右税金を徴收してはならない。三、被控訴人等は、被控訴人横須賀税務署長が右徴收のため、收入官吏として債権者国、債務者控訴人との間において、昭和二十三年二月二十日なされた控訴人所有の神奈川縣三浦郡三崎町日の出東の町十番の十一地所在家屋番号七十九の三、木造瓦葺平家住家一棟建坪二十八坪五合七勺の差押処分を取消せ。四、被控訴人等は、被控訴人横須賀税務署長が昭和二十三年四月二十四日なした嘱託に基きなされた前項差押登記の抹消登記手続をせよ。」というのである。而して右本案の請求はいずれも税金債務の不存在を理由とするものであつて、税金債務なるものは単に私法上の権利義務の関係に過ぎないものであるから、これが賦課処分が取消されたと否とに関係なくその不存在を主張し得るものである。と述べた外はいずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。

理由

控訴人は税金債務を以て私法上の債務なりとする見地に立つて、横浜地方裁判所に税金債務不存在確認の請求の訴なる本案訴訟を提起し、本件においてはその徴税手続停止の仮処分を求めるものであるが、先ず本案の訴について考察するに、本件第一種増加所得金のごとく行政庁の課税行為によつて国と納税義務者との間に生ずる法律関係は、国家課税権なる公権力の行使に関するものであるから到底控訴人の主張するようにこれを以て単なる私法上の債務に過ぎないと認めることを得ず、従つて税金賦課の違法を爭う訴は結局行政事件訴訟特例法第一條に該当する訴と観るべきである。而して同條には「行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟」とその他「公法上の権利に関する訴訟」が規定され租税賦課処分に著しい瑕疵が存するときは、その処分は当然無効であるから当事者は公法上の権利に関する訴訟によつてその賦課処分の無効を主張し得るが、然らざる場合その賦課処分は一応有効になされたものであるから、当事者は「行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟」によつて、この賦課処分の取消又は変更を求めることを要し、本件の如く行政庁が一旦所得金額を決定した以上、単に控訴人主張の如き事由すなわち控訴人の実際上の所得額を超過して所得金額を賦課せられたというがごとき事由のみによつては、右所得金額の決定は当然無効を以て目すべきではなく、単に取消の対象となるに止り、裁判によつてこれが取消されざる限りは有効のものと解するを相当とする。すなわち、本件の場合控訴人は私法上の債務不存在の訴又は「公法上の権利に関する訴訟」を本案訴訟として提起すべきではないのである。控訴人は須く本案訴訟として「行政庁の違法な処分の取消又は変更に係る訴訟」を提起すべきであつたのである。されば税金債務を以て私法上の債務なりとし、その不存在確認を求める控訴人の本案訴訟は許されざるものと認める外なく、(仮に控訴人においてその本案訴訟の請求原因を「公法上の権利に関する訴訟」に変更することありとしても、これ亦許されざる所である)、従つて本案訴訟にして許されざる以上、本件徴税手続停止の仮処分の申請も亦許されざるものといわざるを得ない。仍つて結局原判決は正当なことに帰着するから、本件控訴を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について同法第九十五條第八十九條を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 山崎一郎 判事 松田二郎 判事 多田威美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例